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◇荒井英子先生からのショートメッセージ

~2007年11月18日 秋の特別伝道礼拝のために~

 

《メッセージ:ゆるされることの重み》

聖書の中でも最も有名な言葉、「敵を愛しなさい」。この言葉は通常「被害者」の立場で読まれるのではないでしょうか。「そんなことを言ったって無理だ、こんな思いまでしたのに、なぜ敵をゆるさなければならないのか」と。しかし、昨秋私は「旧満州」の長城に近い村々を訪れ、旧日本軍によるホロコーストの生存者たちの証言を聴きながら、この言葉を読む立ち位置を根底から変えられました。

どの戦争被害者にも、歳月を経ても風化しない傷が心にも体にも深く刻まれていました。また、彼らは日本人への怒りだけではなく、身近な愛する者を助けられなかったという自責の念、申し訳なさ、悔い、無力感に苦しめられていました。時折、耐え難い記憶がフラッシュバックするのか、黙り込み、窓の外をぼんやり見たり、頭を抱え込んだりして、とても苦しそうな表情を見せました。一緒に行った精神科医の野田正彰先生と通訳だけを残して、他の私たちはその場を去ることもありました。

しかし、老人たちはその被害経験を私たちに語るとき、「加害者」を糾弾する姿勢、「敵」だから「報復」して当然だという口調ではありませんでした。私たちの訪問に心乱されながらも、かつての「敵」の子どもたちを心からもてなし、苦しみの果ての寛容さで私たちを包み込むようでした。「ゆるす」という振る舞いがそこに表れていました。

同行した中国人研究者で通訳の労もとってくれた張宏波さんは、この村人たちの「語りの姿勢」を次のように解き明かしてくれました。「『加害者』を赦した『被害者』は、『被害者』であるというアイデンティティを放棄している。相手を『加害者』と見なすことをやめた元『被害者』は、元『加害者』とのあいだにおのずと新しい関係を見出していくほかない。・・・容易には埋めることのできない深い溝を前にして、憤怒や激情に震えながらも、そしてそれがゆえに、赦しが先立っているのだ。赦しを先立たせるという困難が、敵対関係を共生関係へと転換させるという困難を導く」と。

中国の古老たちがあえて取り組んでいる「愛敵」の現実に直面し、日本人の私はゆるされることの重みを思わざるを得ませんでした。簡単に「ゆるし」などと語ってはいけないことを知りつつ、しかしゆるされた者は、あの困難を受け継ぐ者へと変えられる、そのことを確信したのでした。

荒井英子(あらいえいこ)

恵泉女学園大学 人間社会学部 人間環境学科准教授。(「キリスト教学入門」、「聖書学」、「女性とキリスト教」、「キリスト教と人権」、「キリスト教と人間形成」、「演習」などの科目を担当) 。日本基督教団牧師(かつて日本基督教団信濃町教会で10年、多磨全生園・秋津教会で4年牧会)。1953年山口県生まれ。青山学院大学文学部神学科卒、東洋英和女学院大学大学院人間科学研究科修了。専攻は旧約聖書。ここ10年ほどは、ハンセン病とキリスト教との関わり、フェミニスト神学、キリスト教女性史を中心に研究活動を行っている。著書に『ハンセン病とキリスト教』(岩波書店、1996年)、『近代日本のキリスト教と女性たち』(共著、新教出版社、1995年)、『新共同訳旧約聖書略解』(共著、日本基督教団出版局、2001年)、『女性キリスト者と戦争』(共著、行路社、2002年)『占領と性―政策・実態・表象』(共著、インパクト出版会、2007年)など。・・・荒井先生は2010年11月23日、逝去されました。

 

 
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